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エリュシオンでささやいて
第6章 Invisible Voice
「やはり朝霞は事前に情報を聞いていて、お前を庇っているようだ。さてさて、事態収拾班がいねぇのならどう穏便にお前を拉致るか、となれば……逆に俺達が目立たねぇと駄目だな」
「え、いやらしいことは嫌だけど」
「それより目立ってここを出るようにする。お前も、ちょっと覚悟してろよ。虎を檻から放つから。出来るだけ俺に囓らせるようにはするけど」
早瀬は不穏なことを口にして、スマホを弄った。
そしてセットの珈琲が来て、飲んでいた時だった。
窓の外に、真っ赤なBMWが停まったのは。
そして中から出てきたのは、赤いスーツのボンキュッボンの美女。
どこぞの大女優だろうか。
縦巻きの髪を靡かせて、この喫茶店に入ってくる。
華やかな絶世の美女。
誰もが目を奪われる。
「ねぇ、こっちにやって来るけど。あの赤いひと。あなたの知り合い?」
そう尋ねた時だった。
珈琲カップの把手に優雅に指を絡ませて飲もうとしていた早瀬に、その美女が後ろから抱きついたのは。
「須王ちゃん、お久しぶり~!! 連絡くれてありがとう。私、早くまたあなたに抱かれたくて」
そして、目の前で……ぶっちゅうとばかりに唇が重なった。
トラウマが、フラッシュバックする。
音楽室で見たような光景。
見たような、ではない。
ここまで派手ではなかったけれど、このひと……あの時の女性じゃないか。
はは……。
なにが手で隠していたよ。
なにが、そんな女はいない、よ。
いるじゃないか。
――私、早くまたあなたに抱かれたくて。
手の切れていない女が。
女は艶然とあたしを見ていて。
そして早瀬は――。
「違う、これは――っ!!」
「嘘つき!!! 最低!!!!」
あたしは憤然と立ち上がり、よろけながら店の外に出て行く。
「待てよ、柚っ!!」
後から追いかける早瀬に腕を掴まれる。
それをぱしっと手で払いながら歩く。
「離してよ、離し……」
……その時だ。
後ろから駆けて来た美女があたしの腕を掴んで、BMWの後部座席のドアを開けると、あたしを押し込んだのは。