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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

 *+†+*――*+†+*


 左ハンドルの赤いBMWは、猛速度で追いかけてくる黒いボックスカーと黒塗りのセダン二台とのカーチェイスをすることになった。

 ここが、スピード走行が許された首都高とか、込んでいない大通りとかならまだいいが、ここは走行車が多い、一方通行の二車線。

 どう見ても、追い越し禁止とある標識が見えるのに、運転席にいる美女は気にもしていないようで、蛇行しながら追い越していく。

「どうせね、情報なんてかき消されるんだから、ここは逃げ切るが勝ちよ!」

 がちゃがちゃと動かされるシフトレバーと、ぐぅんと踏み込まれるアクセル。突然にハンドルが回され、キュルキュルと傍迷惑な音をたててタイヤがアスファルトを滑り、あたしの頭に〝危険〟の二文字を点滅させる。

 しかしそんな状況になっているのはあたしだけらしい。

「棗、そこで減速して左の小道っ!!」

「あいよっ!!」

 キュルキュルキュル!!
 グゥゥゥン。

 左の運転席には、好戦的で血気盛んな赤い美女。
 右の助手席には、ミラーとカーナビを見ながら冷静に指示する……音楽界のプリンス。

 後部座席には……引き攣ったまま、口から魂をにゅうと抜き出した、あたしの屍。

「そこから先は渋滞! 右に入れ!!」

「おぅ!」

 どう控えめに見ても、華やかな美女としか言えない運転手の口から出るのは、野太い声。

 キュルキュルキュル!!
 グゥゥゥン。

「棗、先回りされてる! 振り切って次を右!」

「負けるもんかぁぁぁぁ!」

 キュルキュルキュル!!
 グゥゥゥン。

 ……ひぃぃぃ…。

 救われたあたしが口を差し挟む権利はないことはわかっているけれど、それでも言わせて下さい。

「死ぬ……」
 
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