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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「今さらですが、俺達もお邪魔してよかったんですか?」
そんなあたしの悲しみの横、我らが王様はビールを口つけていけしゃあしゃあと言う。
「あははは、勿論だ。なにより上原ひとり連れ出したら、きっと俺殺されてしまうしね。きっと皆で来るだろうと待ち構えていてよかった」
いやいや、殺すはずないでしょう……と思ったあたしの横で、
「それは賢明な判断だ。俺も無駄に血を流したくないので」
などと物騒で不穏すぎることを口にする早瀬の顔には、どう見ても揶揄めいたものがなく、眼鏡がさらに彼を冴え冴えしく見せていた。
「ところで朝霞さん」
裕貴くんが、ひとつ柏手を打って言う。
「大丈夫だった? 金曜日は。……あははは、大丈夫だから、今ここにいるんだろうけどさ」
――いいか、裕貴。お前はひとの機微に聡い。俺が場の温度を下げたら、お前が無邪気なふりをして温度を上げろ。KYのふりを出来るのは、十七歳の特権だ。
「ああ、なんとか逃げ出したよ。だけど不思議なことに、事件にもなっていないみたいだ」
……朝霞さんは、こちらの質問を見透かしたかのように、切り出した。
本当に不思議に思っているのか。
こちらの反応を窺いたいのか。
女帝が言った。
「そうそう、事件にもなってませんでしたわね。私、次の日どうなったのか心配で見に行ったら、皆記憶がないとか言い出していて不気味でしたわ」
――三芳は素知らぬふりをして核心を突いていけ。

