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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

すると後ろからタイミングよく給仕さんが飲み物を持ってきてくれた。
「いらっしゃいませ。おビールとジュースをどうぞ」
聞き慣れた声に、その給仕さんを見上げれば、なんと所在不明だったはずの棗くんだった。
びくっと動揺が走る一同(ただし早瀬は除く)に、早瀬は咳払いをして「見て見ぬ振りをしろ」とお達しが下る。
……そうか。調理場に棗くんがいてくれれば、運ばれる料理は怪しいものが入っていない可能性が高いのか。
髪をまとめ上げた棗くんは、おしとやかな着物とは相反し華やかすぎて、まるで高級クラブのママかチーママのような手慣れた雰囲気がありながら、お水の業界には異質なオーラがある。
「ではごゆっくり」
棗くんは、あたしにウインクをして襖を閉めていなくなる。
ありがとう、棗くん。
どうしてこのお店も、突然の棗くんの要請に応えて給仕をさせたのか、それはわからないけれど、棗くんのナイスアシスタントでお料理もひと安心だ。
裕貴くんの前だけにオレンジジュース、他はビールの中ジョッキが置かれ、朝霞さんの音頭で乾杯。
「え……と真理絵さん。この間は突然押しかけて失礼しました」
頭を下げても真理絵さんは微動だにしない。
冷え切った瞳が、あたしと真理絵さんの間柄のように思えて、哀しくなる。
「あの……」
「うるさい」
横を向いたままでそう言われて、あたしからはなにも言えなくなった。
嫌われているんだ。
……こんなに拒絶のオーラを出すほどに。
哀しい。
和解することは出来ないんだろうか。
朝霞さんを介してでも。
――柚、ベリーのお店あったよ!!
優しくて明るくて、あたし好きだったのに。
出来るのなら、話をしたいよ。
……だけど、明らかにあたしの存在を拒絶している真理絵さんは、警戒ゆえか、強張った顔をしていた。

