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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「俺、ツノがない漢字って初めて知った!」
「その鬼子母神と柘榴に関係があるんですか?」
あたしの質問に裕貴くんが答えた。
「あ、そういえば鬼子母神堂の仏像に手にしているのは、柘榴だとか聞いたことがあったな」
「へぇ、なんで鬼子母神に柘榴なんだろう」
早瀬がにやりとして言う。
「俗説によると柘榴は人間の肉の味がするらしい。だから食えなくなった子供の肉の代わりに食べていたとか。そうなれば、匂いなんてないように思えるよな?」
早瀬の視線を受けた朝霞さんは、苦笑した。
ざわざわ、ざわざわざわ。
想像しちゃっている時に、棗くんがお野菜とお肉を運んできた。
「こちらのお肉は追加用になります」
テーブルに置けない分の野菜は、端に座る早瀬の横に、半球状の蓋付きの大皿が置かれた。
せっかくのお肉なのに、タイミング悪!!
「俗説がそれなら、通説はなんですか?」
しかしそう思っていたのはあたしだけだったようで、女帝が話を再開させれば、朝霞さんが答えた。
「柘榴の実の中には沢山の実があり、たくさんの種が詰まっている。そこから豊穣や多産をもたらすものとされているらしい。ただし、ギリシャ神話では、不吉な象徴みたいだね」
「あ……ハデスの妻ペルセポネーも誘惑には勝てずに、冥府の食べ物を食べてしまったから、冥府にいないといけなくなったんでしたっけ。確かに不吉かもしれませんけれど」
女帝もギリシャ神話を知っているらしい。
「しかし、柘榴を食べたからこそ、彼女は冥府での時間を過ごしてハデスを愛した。悪いものばかりではないかもしれないよ?」
朝霞さんにエリュシオンのハデスこと早瀬が言う。
「しかし彼女はハデスの子供を産んでいない。これは吉と言えるのか?」
「死せる者の世界では、新しい命は必要がない。誰もが、ハデスまでもが、冥府の掟に従っていただけだ」
朝霞さんが言う。
「そう。ひとの命すら認めないのが、冥府〝エリュシオン〟だ」
早瀬は黙り、じっと朝霞さんを見ている。
なんでハデスの話でふたりはこんなに真剣なのだろう。
なんでハデスの話になったっけ。

