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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 
 
「こいつは出なくていい。電源切ると留守電にいれてくるから、声も聞きたくねぇ。途中で切るのは、出たくねぇという意思表示。後は放置しとけ」

「でも、かなりずっと長く鳴ってたよ? 今回は緊急事態じゃ……」

「あいつがなんとかすればいい。俺が話に乗る義理はねぇ」

 彼は茹で上がったジャガイモの皮を剥いていた。
 よかった、後で皮剥くつもりだったのか。

 切られたスマホは、再びブルブルと震え始めた。
 しかし、須王は一切無視。

「ねぇ、きっと緊急だよ。出てあげた方が……」

「俺の緊急だったら俺がなんとかするだけの話。あいつの緊急なら俺は知らん。暇人だから、いつも長くかけてくるんだ。あいつの趣味だから、気にするな」

 いやいやいや!

「気にするなって……。そのひと、棗くんが言ってた〝ワタル〟さんだよね?」

 するすると皮を剥く須王。
 自炊しないくせに、包丁の使い方、手慣れているじゃないか。

 ……まさか銃だけではなく、刃物も得意だから、とか?

「そんなに嫌いなの、そのひと。シュウさんというひともだったよね?」

「忘れろ忘れろ。なんかお前の口からそいつらの名前が出てくると、無性に腹立たしくなる」

 美しい顔が歪んでいる。

「本当に嫌いなんだね。なんでそんなに嫌いなの?」

 しばしの沈黙の後、須王は尋ねてくる。

「……教えて欲しい?」

「え?」

「俺が、ワタルとシュウをなんで嫌いなのか」

「……教えてくれるのなら」

 フライパンにみじん切りにしてあるにんにくと、オリーブオイルを入れて熱し、火を調節しながら、なんでもないというように振り返らずに彼は言った。

「俺の過去の話したろ? 俺が組織から抜けたくて助けて欲しいと泣きついた話」

「うん。お身内だったよね?」

「……ああ。ワタルと俺とシュウともうひとりが、横暴な奴らに呼ばれたってわけ。横暴な奴らと俺達と、中立を保とうとしていたのがワタル。自作自演で気を引いたのがシュウだ」

 火のついたフライパンにジャガイモとベーコンが入れられ、彼は塩こしょうをして混ぜながら言った。……怒りを帯びた声で。
 
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