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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

 シュウさんも、本当に気を引くための自作自演で倒れたのか、第三者のあたしには疑問が残る。
 なんで須王は、本当に倒れたのだと思わなかったんだろう。

 もしかして――。
 須王は、そう思い込もうとしているんじゃないのか。

 あたしは渉さんもシュウさんもタツキさんも会ったことはないけれど、須王が嫌悪感を抱く横暴な自称身内は、まだ他にいたわけで。渉さんは中立だったわけで。

――ワタルと俺とシュウともうひとりが、横暴な奴らに呼ばれたってわけ。

 シュウさんの立場は、須王と同じ。
 だったらシュウさんも、須王と同じような嫌悪感を抱いてはいなかったのだろうか。

 嫌いなひと相手に、倒れて気を引くとは考えづらくない?

 どんな身内なのかわからない。
 ただ、母親に捨てられて施設育ちだった須王にとって、後で増えた身内は、常識内で留まれるような普通さはないのだろう。

 須王は家族に対して、いい気持ちを抱いていない。
 どちらかと言えば、敵視している。

 あたしは、須王の広い背中を見ながら思う。

 ……もっと彼には、愛情が必要だ。

 どんなに音楽家として大成しても、彼の心は昔で止まっている。

 彼のあたしに対する接し方は、九年前と変わりない。
 九年前に止まった時を進めている。

 彼の方が、シンデレラなのかもしれない――。
 
「どうしたよ?」

 彼に後ろから抱きついてしまったあたしは、密やかに泣いてしまった。

 彼は同情の必要ないほど、強くなったかもしれないけれど、それでも……あたしはわかってあげたい。
 
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