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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「柚?」

 彼が横から、あたしの顔を覗き込む。

「……あたし、あなたの味方だから」

「え?」

「あなたの身内があなたを本当に傷つけていたとしても、そのつもりはなかったのだとしても。傷ついたあなたを、あたしが一番にわかってあげたい」

 ダークブルーの瞳が揺れた。

「あたしなら、わかってあげられると思うんだ。家族に見捨てられて、あなたを嫌いと言いながら本当は好きで、心の救済を願ってきたあたしなら」

「柚……」

「そっか……。あたしが苦しんだの、意味があったんだ。これぞ神の采配って奴かも」

 あたしは泣きながら笑う。

「他のひとではなくあたしが、あなたのより近いところに居れると思ったら……、嬉しいや」

 須王は、あたしの手を解いてこちら側を向くと、彼の腕の中にあたしを入れた。

 ふわりと、甘酸っぱくも甘い香りが鼻に漂う。

 ……彼はなにも言わなかった。

 言わなかったけれど、鼻を啜る音が聞こえて……、その音に共鳴したあたしもまた、切なくなりながら……密やかに嗚咽を漏らした。

 このひとを守りたい。
 誰よりも強靱な肉体を持つ、彼の心を――。


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