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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

 ただチェリーが行ったり来たりする中で、それを無視して故意的に絡み合い吸いついてくる彼の舌が欲しくて、口端から唾液が垂れていることにも気づかず、官能的なキスに夢中になる。

 彼が数度噛んだチェリーがあたしの口の中に入り、あたしも少し噛めば、漏れた甘酸っぱい汁が、繋がる口と舌に侵蝕して。

 いやらしく舌で奪われるあたしのチェリーは、もう原型を止めていないのに、チェリーを言い訳にして、彼の舌に吸い付くあたしに、彼の大きな手があたしの頭を優しく撫でた。

 彼はあたしからすると、こうやって頭を撫でることが多いなと思いながらも、あんなに睦み合ったのに蕩ける身体を彼に擦りつけて、無我夢中に彼の舌を追いかけるあたしは、浅ましい女なのかも知れない。

 クチャクチャとチェリーが噛まれていくに従い、あたしは彼に咀嚼されているような妙な気分となる。

 そしてあたしも彼を咀嚼して嚥下している――カルバニズム(人肉嗜食)は、愛の究極の形なのかもしれないと、ふと思った。

 禁断の門は募る愛に開かれ、それを犯罪者だと一括りにするのは、あまりにも切ない……そんな倒錯的な感傷に浸るあたしは、唇が離されていく様をぼんやりと眺めた。

「……くそっ。その顔、絶対俺以外に見せるなよ」

 一度離れた唇は、噛みつくようにしてまた重なって。
 
「柚、好きだ……」

 彼の言葉に悶えるあたしは、彼をぎゅっと抱きしめて、激情のようなキスに陶酔したのだった。


 ……幸せだと思えばほどに感じる、この胸騒ぎはなんなのだろう。
 急いたように相手を求めるのは、須王も同じ。

 あたしは須王の傍にいる。
 そう思っているのに、なんで不安になるのだろう。

 この幸せのツケが回ってくるような。
 あたしと彼は、結ばれてはいけない……そんな運命かのように。

 刹那的な激情に流されながら、それでもあたしはこの温もりを失いたくないと、幸せの時間を持続させようと、彼の手をぎゅっと掴む。
 
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