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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

 くそっ、美人さんはいいね、マッパでもうっとりするほど綺麗で。
 フェロモンただ漏れで。
 あたしは、歩く犯罪、環境汚染のような気がする。

 水着さんごめんね。
 あなたに罪はないんだけれど、脱ぐ時間がなかったから隠させて。

「さ、寒いからね」

「プール温水だぞ?」

「べ、別に泳がないし」

「そういうお前に……借りてきた」

 彼が横からひょいと手にしたのは、アヒルの顔がついた大きな浮き輪。

 ボートのようにも見えるが、ちゃんとしたドーナツ式だ。
 ……あたしのお尻は、あの穴には入らなさそう。

「うわ、なに可愛いアヒルさん!!」

 そう、愛らしいくりくりおめめをしたアヒルの顔に気を取られて、それを両手で受け取ろうとしたあたしは、にやりと笑う須王が迅速な速さで、脇ががらあきになったあたしのタオルを剥ぎ取るのを見た。

「ひっ!?」

「頂き」

 タオルがポトリと床に落ちた。

「ひぃぃぃぃっ!!」

 どこかを隠していいかわからず、両手で胸と股間を隠して……さながら即席ボッティチェルリの「ヴィーナス誕生」。巨大なホタテ貝は、足元に落とした浮き輪だ。

 しかし隠した両手は、須王に取られて上から下までまじまじと見られる。

「み、見ないで……っ」

 足をもぞもぞと動かして、とにかく彼の視線から色々隠そうとするのだが、須王は片足をあたしの足の間に割り込ませて、それを阻止。

「ねぇ、羞恥プレイやめて。似合わなくて恥ずかしいの、ねぇっ」

「………」

「須王、ねぇって。パーカー着るから、だからねぇ!」

「……っ、やべぇだろそれ」

 彼はあたしに抱きつくようにして、視界からあたしを消した。

 わかってはいたけれど、ショックで。

「ごめん……」
 
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