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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 
 
「あれスカイツリー!? あっちは東京タワー!?」

 きゃっきゃ喜ぶあたしは、須王に一点を指さし……バシャッと片手で彼の顔に水を掻き上げた。結構水は温かかった。

「お前……っ」

「あはははは」

 須王はアヒルちゃんの首を掴むと、ぶんと遠くに放った。

「きゃああああ!!」

 浮き輪ごと宙を飛び、落下して水面を跳ねると、上下に揺れる。
 怖いあたしは、アヒルの首に両手で抱きついた。

「あたし泳げないのよ、落ちたら溺れるじゃない!」

「大丈夫、俺が死なない程度に助けてやるから」

「その前に助けて!」

「ははは」

 須王は、すぃ~と泳いできた。
 悔しいけど、泳いでも綺麗だ。

「いいね、お魚さんみたいに泳げて」

「泳ぐ? 教えてやるけど」

 いつも髪先が隠している彼の泣きぼくろが、髪が掻き上げられて陽光にあたっているせいでしっかりと見え、実はふたごちゃんであったことを発見。

 妙に艶めかしい。
 この男、どれくらいフェロモン度数をあげる気なんだろう?

「いや……、こっから見ていたい。泳いで見せて」

「お前、楽しくねぇだろ」

「楽しいよ。いつもプール見学常習犯だし、今とっても良い気分だもん」

 まるで、東京の地に浮いているような気分のあたし。

「須王が泳いでいるのなんて、滅多に見られないんだし。ここから応援してるよ」

「じゃあ……軽く流すか」

 あたしはぷかぷかと浮いたまま、一度上がった須王が飛び込み台に立つのを見た。

 彼のサーフパンツは黒とワインのグラテーション。
 もしかして、色合いがお揃いなのか。

 飛び込みから見れるとも思っていなかったあたしは、妙に興奮して、飛び込み台の上で手を伸ばしたり屈伸運動をしている、均整の取れた身体をしている須王を見つめた。
 
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