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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「……ねぇ、まさか。あたしのこんな水着姿で興奮してるとか?」

「悪ぃかよ」

「美化しすぎじゃない?」

「いいや。お前が謙遜して卑屈になりすぎだ」

「いやいや。あなたの目の方がおかしいよ」

「おかしいのはお前だ」

「あなただって」

「お前だ」

 吐き捨てるように言うと、彼はあたしの両膝裏を掬うようにして、持ち上げた。

「ちょ、あたし着替え……」

「黙れ。お前が誘うなら、俺も乗ってやることにした」

「はあああ!?」

「アヒルと遊ぶんだろ? ほら、拾え」

 渋々と拾うと、須王はそのままスタスタとプールの方に歩いていった。

「普通の浮き輪とアヒルだったら、お前ならアヒルだろ?」

「……そうだけど、随分と子供扱いされてますね」

「子供がこんなにうまそうな身体晒すかよ」

「……なっ!」

 どうして、この男は!

「十二年もお前を女としてしか意識してねぇよ。その上でそんな格好して煽られたら、自制心なんてあってねぇようなものだ」

「……っ」

「それを必死に押し止めてる。いつ自制出来なくなるかわからねぇけど、それまでは遊んでやる」

「え、偉そうに……」

 プールサイドは、東京の遠景が取り囲んでいた。

 彼は、手すりのついた階段から水面にアヒルちゃんを浮かべ、そこに静かにあたしを乗せると、プールの中に入った。

 あたしは浮き輪の真ん中の穴におしりをいれて、両手と両足を投げ出すようにして座っている状況だ。

 一度彼は潜って、たくさんの飛沫と共に顔を出した。
 そのまま濡れた髪を片手で掻き上げ、水も滴る超絶イケメンは微笑みながら、浮き輪を片手に掴むと、そのままプールを歩き出した。

 まるで(アヒルと王様の)水上散歩。
 光が差し込んでキラキラ光る水面の上をゆらゆらと漂う。
 
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