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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「わからないふりをして、こうやってあなたが生きていることに感謝したいと思う。あたしが出来ることをしようと思う。あなたみたいに強くはないけれど、根性だけはあるつもりだからへこたれないよ」

「……柚」

「須王に嫌われない限り、あたしは大丈夫。傍に居る。借金もあるし」

「俺が嫌うわけ、ねぇだろ?」

 陽光がタークブルーの瞳を煌めかせると同時に、彼の頬にある一筋の光を映し出す。

「それはありえねぇから。もし俺がお前を嫌って離そうとしたら、それはとち狂った時だ。その時は……俺を殺して」

「な……」

 須王の目は真剣だった。

「ふざけてねぇ。それくらいの想いでいるんだ」

「……ありがとう」

 痛いくらいの視線に、涙が出そう。

「お前、不安はある? 抱え込むなよ、ちゃんと言えよ?」

「不安なことは……ある」

「なんだ?」

 怖いくらいに見つめられた。

「あたし、この状況で……HADESプロジェクトのボーカルを探し出せるんだろうかって」

「……お前、今の流れでそれか?」

「だって……、あたしだって守りたいんだもの。あなたの大切なもの」

 凡人のあたしに出来ることは限られているのだから。

「俺は、すべてを諦める気はねぇ。ちゃんと環境を整えて、ボーカルを選んで貰う。恐らく今週……オリンピアが動くはずだから」

「え、朝霞さんが?」

「恐らくな。だから余計に気を引き締めなければならねぇ」

「………」

「お前に、平和をプレゼント出来るよう、全力を注ぐ」

「ありがとう……」

 前途多難な恋。
 それでもあたしは、やはり須王がいい。

 あたしのためにトラウマと対峙しようとする彼が。

 雲間に隠れていた太陽がまた顔を出して、見つめ合ったあたしと彼の顔を眩しく照らし出し、自然と唇が重なり、心まで濡れるような……情熱的なキスを貰った。


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