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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「だったらあたし、もっと気を引き締めないとね。会っていないからって、昔から親近感はなかったとはいえ、一応は血が繋がっているから。あたしも、家族に相対しないといけない時期に来たんだと、そう思うようにする」
「……柚」
「あたし、須王をもう不信にも嫌いにもなりたくないの。ただちょっと、そんな話を聞いていなかったから、あたしに対して裏があったから近づいたのかと思ったら、ショックで。あなたの言葉を信じようと思っていたから余計に」
「俺がお前に近づきたかったのは、お前の環境や背景は無関係だ。ただ、助けてくれたお前に会いたくて仕方がなかったから。……それだけだ」
その顔は真摯で、彼の真意だとわかったから――、
「やましいものはなにもねぇよ。昨日言ったのは嘘偽りはねぇから」
あたしは微笑んだ。
「わかった」
「……本当に俺の言葉信じるのか」
「え、嘘ついてたの?」
「そうじゃねぇけど」
「もう嘘つかないんでしょう?」
「ああ」
「だったら、疑ったあたしの方が悪いでしょう。あたしの方が、ごめんなさいでしょう?」
「……くそっ」
「ん?」
「お前の男前ぶりに、また惚れたわ」
「お、男前って……」
「男前で、どこまでも慈愛深い。本当に俺が惚れた女は、どこまで惚れさせるんだろうな」
彼はあたしをぎゅっと抱きしめながら、あたしの耳元で囁く。
「信じてくれて、ありがとう」
その声は震えていたけど、あたしは気づかないふりをした。
「どういたしまして」
いつぞやの会話を思い出し、笑ったのはあたしだけじゃなかった。
「ああ、そうだ。こっちも忘れていた」
あたしは手にしたままの楽譜を須王に見せた。
「ねぇ、なんであなたがこの曲を知っているの?」
須王は楽譜を見て、訝しげな眼差しを向けた。
「お前の方こそ、なんでこれを知ってるんだ」
「ほら、前に天使の話をしたでしょう? 九年前に首だけで発見されたって。あの天使が歌ってくれた歌なの」
「……なぁ、柚。これを知っているのは、エリュシオンの組織の奴だぞ」
「え……」
「そして組織は、外部で接触した奴を許さねぇ。会話をすれば特に。だから俺、十二年前お前の家から逃げたんだ」
「……っ」
「お前、本当に見逃されたのか?」