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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
裸の身体につけられた鎖。
魚の腸が腐ったような饐えた死臭漂う、子供だけを集めた洞窟のような穴蔵の檻の中での生活は、人間のものとは言えず。
僕は、僕を売った両親を恨んでいたが、とうに両親に対する憎悪と思慕の涙は、過酷な拷問を耐える生理的なものと成り代わり、身体から流れる血と痛みにすら涙が出ることないまでに涸れ果てた。
課題をクリアしていけば、少しずつ暮らしがよくなる。
だから僕は死に物狂いで、言われるがままのことを……そう、他人の命を奪う術を習い、それを実践してきた。
僕の顔が女顔だったからと性技を植え付けられていた時、須王と組まされた。
目でひとを殺してしまいそうな、生まれつきの暗殺者かと思うくらいの昏い眼差しに、僕は……僕の姿を見たんだ――。
そう、最初は自己憐憫からで。
次に、信頼した。
その実行力と彼という存在に。
――棗。俺達はここから出るぞ。いいか、生きるために潰そう。ここはあってはいけない場所だ。外に出よう、俺達の世界はここじゃねぇ!
「棗く……うわっ」
そして今――。
「しっ。静かにしててくれ、いつもの発作なんだ。水持ってきてくれねぇか」
「わかった」
僕は彼に嫉妬している。
僕のように薬なしで、そう……音楽と上原柚を愛したことで、組織の残像を追い払える上に、裏と関わらずに表だけで生きていく道を選ぶことが出来た彼に。
わかってはいるんだ。
須王だって血まみれになって組織に苦しんだ。
さらに帰る場所だと言っていた現世において彼は、不条理にも自由を奪われている。
そこにどちらが上か、どちらが下なんてない。
僕達は対等だ。
だからこそ。
「棗くん、ペットボトルのお水だよ。大丈夫?」
……僕が先に好きになったひとから愛される、男の身体を持つ須王に、嫉妬するんだ。
僕は、好きな女を抱くことも出来ないのだから――。
ああ、誰か。
僕に救いを下さい――。