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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
Natsume Side
抑えていた汗が噴き出て頬を伝う。
目の前の景色が薄れてぐるぐると回る。
須王と彼女がうまくいったとわかった時、発作が起きるような嫌な予感がして、会話で組織の話が出てきたあたりから、変調は自覚していた。
もう、限界だ。
やっとの思いで仮眠室のドアを開けて、閉じたドアに背を凭れさせるようにして、ポケットから小瓶を取り出した。
早く、早く。
――おお、可愛い。まるで天使のようだ。
しかし蓋を回そうにも手が震えて強張って、中にある白い錠剤を取り出せない。
――おお……もっと口を開けろ。もっと奥で咥えるのだ!
生臭い匂いと、醜い男の奇声のような喘ぎ声。
――どうだ、自分の尻の中は。腸は熱いか、あははははは。
尻に挿されたものは、この男が自ら切り取った――。
「くそっ、取れないっ」
呼吸すら乱れて、僕は床に小瓶を叩きつけた。
それでも割れなくて、小瓶を掴んでガンガと壁に叩き避けるが、強化硝子で出来ているかのように、それは割れなくて。
――お前は人間じゃない。ただのメスの獣なのだ!! ずっと私のモノを咥えるだけの性処理だ!
僕は片手で汗で濡れた顔を引っ掻いた。
「棗!?」
突然割り込んできたのは、須王の声。
「棗、落ち着け!」
僕の手から小瓶を奪う須王に、僕は昔のようにその喉笛に噛みつこうとするが、彼は代わりに手を差し込み、噛みつく僕の頭を後ろに倒すようにして床に仰向きにさせ、片手で小瓶の蓋を取ったようだ。
僕の口の中にある血味の肉。
何度も何度も咥えてきた醜悪のものだと思うと込み上げるものがあり、僕はそれを噛み切って吐き出そうと、じたばたと暴れて。
「棗、薬だぞ。いいか、安定剤だからな!?」
歯を立てたそれが引き抜かれ、代わって何かが放られると、咄嗟に呑み込んでしまう。
それが慣れた媚薬は興奮剤に思えた僕は、終わらない悪夢がまだ続いていることを思って絶望感に声を上げた。
そんな僕に須王が抱きしめて、背中を撫でてくれる。
「大丈夫だから、棗。もう組織はねぇ。もう俺達は苦しい思いをしなくてもいいんだ。棗、悪夢から覚めろ」
震えた須王の声。
何度も俺は聞いていた。
――俺のことはいいんだよ。棗、大丈夫か? 俺がついていてやるから。