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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「そんな、棗くん。棗くんにいい石を選んできたんだよ、全部ひとつひとつ」
「あら、ごめんなさいね」
お仕事中なのかつーんと棗くんに、須王が笑ってあたしにこそこそと耳打ちをした。
「……照れてるんだ。こっちに来い」
あたしを連れて棗くんのところを立ち去り、そして須王に言われるがまま、影から棗くんを見た。
ちら。
棗くんは置かれたままのブレスレットに目を向けて、頭を横に振って書類を見る。
うう、惜しい。
「大丈夫だ。興味津々だよ、あいつ」
その数十秒後、不意に手を伸ばして効能カードを手に取り、それに目を通して元合った場所に戻し、また書類内容を見つめる。
「もうこっちのもんだ」
須王が笑って言ってから、さらに数秒後。
棗くんは書類を見たまま手を伸ばして、ブレスレットを手に取り、手首につけてくれた。
……なんだろうね、我が子が初めて歩き出したようなこの感動。
つけたのを見た棗くんが嬉しそうに笑ったのを見て、あたしは須王と両手を叩き合った。あたし如きでは棗くんのツンデレに敵わない。
「あいつ、仕事以外に皆でお揃いというものが初めてなんだ」
「須王とお揃いは、ないんだ?」
「男のお揃いは気持ち悪いだろ」
確かに。女の子なら、小者とかをお揃いにしてきゃっきゃするかもしれないけれど、それがどんなにイケメンであっても、男同士なら異質だ。
初めて須王とお揃いの、仲間の印。
棗くんはなにを思うだろう。
「棗姉さーん、棗姉さんはどんなの、見せて!!」
「ジャーン。いいでしょう棗、私のピンクの石はより女性的なのよ」
……最初はとってもうるさそうに追い払っていた棗くんだったけれど、やがてふたりのブレスレットと、彼のブルールチルのブレスレットを見比べるようにして、はにかんだように微笑んだ。