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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
柘榴……。
あたしは須王と顔を見合わせた。
牧田チーフだけではなく、記憶にひっかかる不吉な名前を持つ石だ。
だけど、エリュシオンに柘榴が関係があるというのなら、須王を引き合わせてくれたのもまた、エリュシオンなんだ。
そう考えたら――。
「意味ありげで俺はいいと思う。お前は?」
「同感」
あたしは笑った。
小林夫人は手慣れた手つきでぱっぱとブレスレットを作っていく。
ひとつひとつ包装してくれて、印もつけてくれて。
少し値引きをしてくれたとはいえ、値段はかさんだけれど、あたしはこのブレスレットがいいと思ったから、無駄遣いではないと思う。
「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げる夫人。
売り上げに繋がるからだけとは言えないくらいに、石に関しては嫌がらず辛抱強く聞いてくれたし、入ったばかりだという新しい石を見せてくれて、あたしに選ばせてくれた。
きっとこういう親身になってくれるところを、小林さんは好きになったのだろうな。
いつか旦那の腕にあるブレスレットを見て、なにかを感じてくれるといい。
あたしが真剣に選んだ石が、どうか小林さんだけではなく、奥様にもパワーをもたらしますように――。
病室で皆に渡すと、皆大喜びで感謝された。
寝たきりの小林さんも、自分にあたるとは思っていなかったらしく、ちょっと照れながらつけてくれた。
女帝と裕貴くんははしゃいで、効能カードを真剣に見ている。
そして、ひとりぽつんと座って書類を見ていた棗くんは――。
「私、そういうの、しないから」
ぷいと顔をそむけてしまった。
せっかく中身が見えるように包みを開けてあげても駄目。