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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
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女帝が買ってくれた、缶のホットココア。
車の中で握りしめると、興奮していた割にはあたしの体温はやけに低かったのだと気づいた。
それだけではなく涙が止まらなくて、一緒に後部座席に乗っている女帝があわあわとポケットティッシュをたくさんくれて、何度も何度も鼻をかんだ。
少しずつ昂ぶっていた気持ちが落ち着いていけば、夢や記憶で頭が落ちた天使が、少年になって目の前に立っていたなんていう事象をよく自分で受け入れたものだと、自分自身を不思議に思う。
それでもあの少年は、九年前のことを知っていた。
天使の声で歌ったアリア。
それをどう説明出来るだろうと首を捻って考え込むあたしは、須王がバックミラーで見ていたことには気づかず、考えても解決出来ないとはわかっているのに、答えに繋がる迷宮をひたすらぐるぐると歩いているような気分で、考えずにはいられなかった。
青山、ハデス御殿――。
女帝は、ピエロが現われた頃から写真を撮っていたスマホを動画にして、上野公園でのことを撮影していた。
スタジオには裕貴くんと棗くんが丁度帰ってきたばかりだったらしく、須王が棗くんと話している間、現代っ子の裕貴くんがスポーツバックの中から色々黒いコードを取りだし、スマホとテレビの側面を見て呟く。
「MicroUSBとHDMIで接続出来るタイプ……これだな」
「なんでそんなコード持ってるの?」
「だって、今日姐さんと上野公園で〝HARUKA〟に会ったんだろう? このコードは持つべきものは友達っていう奴さ。……よし、テレビと連結完了。須王さん、棗姉さん、準備出来たよ。テレビで見ようよ!」
裕貴くんの、期待に満ちた溌剌とした笑顔を見ていたら、再生するのが本当に申し訳なく思って、先に懺悔することにした。
「あのね、裕貴くん。HARUKAではなく、結構グロいのが映っていると思う」
「はあああ!? HARUKAじゃねぇの!?」
「残念ながら」
裕貴くんは、そんなぁと言いながら項垂れた。