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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
「HARUKAは滅多に顔を出さないし、出たと思っても顔を隠すんだ。だから、姐さんにお願いした動画なんて、超レアものだと思ってたのに……」
「HARUKAって言うんだ。インディーズなの?」
「うん。プロでも通用する声量と声質で、有名プロダクションが必死に手招いているみたいだけど、プロだと歌いたいものが歌えないからと断り続け、インディーズのままらしい」
世界は広い。
デビューだけが音楽のすべてではない。
ダイヤの原石はごろごろと転がっている。
「……待たせたな。見よう」
須王と棗くんがふたりだけの世界から戻ってくる。
小林さんはシャワーを浴びていたみたいで、頭にタオルを巻き付けてガテン系の雰囲気を強めた。ただ――-。
「お、お帰り。どうしたよ、嬢ちゃん」
「い、いえ……。ただいまです」
上半身裸だから、黒々とした胸毛が目に入って困る。
そんなあたしの照れに気づいたのか、須王が間に割るようにして、あたしの隣に座る。
「エロ」
耳元でそう囁くから、あたしは当然思いきり否定するけど、にやにやして須王はあたしを見ている。
にやにやしても超絶美形は綺麗で頭にくる。
目の前では裕貴くんがスマホを再生し、テレビの画面に、ざわついた上野公園の一角が映し出された。
真っ赤なお鼻をしたピエロが飛び跳ねると、裕貴くんは驚いたようだ。
「なんでピエロ……って、うわっ、首切るのかよ!」
わかっていてもあたしも女帝もテレビから遠ざかる。
「……ギミック(仕掛け)ね」
冷静な声を放ったのは腕組をして立っていた棗くんだった。
「やはり、そう思うか? 血があまりにも少なねぇよな」
須王の指摘……血の存在を忘れていた。
そうだ、首を切ったら頸動脈も切断されるのだから、派手に血の噴水があってもおかしくない。
……あたしの夢も。