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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
棗くんは笑いながら言った。
「案外、医師免許持っていない連中かもよ?」
「そんな連中が、遥の身体を切って血しぶきを飛ばしているのかよ。それに棗姉さん、ひとの記憶はそんなに簡単に……あ」
あたし達は今し方、宮武の記憶が曖昧だという場面を見てきたのだ。
「そう。そして裕貴達宮田一家とこの病棟……とりわけ遥の病室内のもので共通するものといえば……AOP。柘榴の香り」
柘榴――。
血を消す以外に、記憶も変えることが出来るというのなら。
「そういうものがなければ、まず別の医療チームが頻繁に別の病院の患者を診察したりはしない。まずは自分の病院に連れるでしょう。しかしあの病院でなければいけなかった。外部医療チームが出入りしなければならなかった。それを思うなら、やはりエレベーターが残っているだろうあの部屋にいる遥が、重要になってくると思う」
「だったら、遥くんが外出していることを、黙認しているということ?」
「今はなんとも言えないけれど、頻繁にあいつらが出入りして遥の身体に触れているのなら、知らないはずはないと思うわ。もし遥がHARUKAで自由に外で動き回っているのなら、だけれど」
あの部屋で一体なにが行われているのだろう。
遥くんはなにをされているのだろう。
結局知ることは出来なかった。
わかったのは――。
忍月コーポレーション副社長である理事長が、坪内医師経由であの特別室を使わせる患者を入院させ、外部の医療チームを遣わせているということ。
そしてその患者は皆、亡くなっているということ。
もしも遥くんも、理事長があの特別室を使わせようとしたのだとしたら、それを遥くんと須王のお母さんは、わかっていたのだろうか。
理事長から、遥くんの〝実験費〟で生活しているのだろうか。
だとしたら、理事長はあの特別室の患者を使って、一体なにをさせているのだろう。坪内医師……というよりは、あのいけすかない医師を始めとした、外部医療チームに。
――……となれば、遥が提供者(ドナー)の可能性が高いか。
「忍月栄一郎……」
須王が、唸るようにしてその名前を呟いた。