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エリュシオンでささやいて
第11章 Darkness Voice
 
 
「だけど、え。なんで早苗ちゃんと師長さんが同じことを言ったの。あれ、俺、師長さんの言葉丸々早苗ちゃんも言ったような気がしているのは、勘違い?」

 あたしは残念ながら、その早苗ちゃんという看護師さんの言葉を一言一句記憶していなかった。

「……勘違いじゃねぇよ。丸々同じだ」

 だけど須王がそう言うのなら、そうなのだろう。

 そうなると――。

「なんで同じことを、ふたりは言ってたの? まるで示し合わせたかのように」

「そこが問題なのよ、上原サン」

 棗くんがシフトレバーを倒しながら言う。

「それにあの早苗ちゃんとやらは、あのいけすかない医師に二度目に会った時、なにも反応していなかったでしょう。怒ることも挨拶すらしていない。ただぼーっと突っ立っていただけだったわ」

 ごめん、棗くん。
 当時を思い出すよりも、棗くんも『いけすかない』と思っていたことに、笑いがとまらない。やっぱりいけすかないよね、あの医師。

「確かに、ただ流されていたわね」

 あたしの代わりに、女帝が同調してくれた。

 皆、記憶力が凄いな。
 といいながら、あたしは忍月栄一郎の情報は覚えていたんだ、えへん。

 ……などと、あたしが話を振ったくせに、棗くんが呈示する核心に触れるのが怖く思えるあたしは、現実逃避をしてしまう。

 だって、他人のふたりがまるで同じことを言うのなら。

「記憶操作がなされているかもしれないわ、あのフロアの看護師は」

 棗くんの言う通り、普通ではない事態の中にいる。
 しかも本人が気づかずに。

「恐らくあの師長さん以外に尋ねても、同じことを言うと思うわ」

 それはつまり――。

「あのいけすかない医師ら外部の医療チームが自由に出入りするために、必要だと思われる……記憶の改竄ね」
 
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