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エリュシオンでささやいて
第12章 Blue moon Voice
 
 
 車はそのまま、青山のスタジオに戻る。

 今日は金曜日で本来はエリュシオンに出勤しなければならないが、須王とあたしと女帝の三人は、社長の期待を担った新規プロジェクトメンバー。
 須王は今日は外周りするからと、事前に社長の許可を取っていたのだ。

 束の間の休息ではあったが、そのおかげで遥くんにすぐ会いに行くことが出来たのはよかったけれど、結局遥くんに関する謎解きは、わかったようでわからない消化不良を抱えたまま、今日のところはお開きになった。

「帰る時、俺の携帯に連絡入れろよ!!」

 スタジオに戻ると、小林さんがドラムの椅子に腰掛け、両手にスティックを持っていた。
 こっそり練習していたらしいが、見つけた須王が叱咤。

「お前、傷が開いて全治が長引いたらどうするんだよ。安静にしてろよ!」

「がはははは。こんなの唾付けときゃ治るって」

「……ふっ。じゃあ唾付けて治せよ、おら、早く!!」

 腰に両手をあてて須王が詰め寄っている間、あたしと女帝は夕飯の支度。
 裕貴くんと棗くんは弦楽器のセッションを始めた。

 ……あたし達、仲良いんだよ? うん。




 今日はチャーハンと餃子。
 餃子は既に昨日のうちに女帝と仲良く作り終えて、冷蔵庫の中。

 そしてやはりチャーハンと言えば、ぱらぱらの黄金チャーハンだよね。
 実はチャーハンは裕貴くんのご所望。

――俺の母ちゃんさ、チャーハンがべちゃっとしてるんだよ。俺が食いたいのは、ぱらぱらしているけどつやつやでふっくらとしていて……。

 卵の卵黄を解いて、冷蔵庫から出したばかりの冷飯にまぜる。
 固まったご飯粒をコーティングするには卵黄がいいというのは女帝説。あたしは卵白も混ぜていたから、べちゃっとしていたのかしら。
 裕貴くんはマヨネーズでコーティングだとネットから調べてきてくれたけれど、それは棗くんが一蹴。

――私、マヨネーズは太るから嫌いなの。

 ……男の子の棗くんは女の子の心理を言い当てて、問答無用で卵黄を使うことになった。
 さらに卵黄とご飯を混ぜる際、隠し味に柚胡椒。
 これは勿論、あたしの名前にちなんで女帝が笑いながら入れたのだ。
 
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