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エリュシオンでささやいて
第14章 brighting Voice
 
「お前……、今さら間接もねぇだろうが!」

「そ、そうかもしれないけど……」

「本当にお前は、エロエロのくせに初心(うぶ)だな。ま、そのギャップがいいんだけど」

「エロエロってなによ!」

 すると須王がテーブルに身を乗り出すようにして片肘をついてあたしを見ると、あたしの唇を指でなぞった。

 そしてその指を口に含んで、いやらしく指先を舐めてみせる。

「どんなにエロく俺を求めるのか、そして、お前にとっての一番はなにか、ちゃんとお前に自覚させてやらねぇとな。今夜、覚えておけよ?」

 熱っぽい目を細めてゆったりと笑う須王に、心の奥がきゅんと音をたてる。

 きゅんじゃないでしょう、あたし。
 
 あたしは至って清純派!
 エロはこの王様で、あたしじゃないんだから。

 それでなくても、このムードたっぷりな暗い室内。
 隣で蠱惑的に笑う王様の色香にあてられたあたしは、顔を背けるしかできなくて。

 すると笑う須王に、顎を摘ままれた。

「とろんとした顔をそむけるんじゃねえよ。ここでキスしたくなるだろう?」

「な……」

「それとも……、誘ってる?」

 妖艶な顔が近づいてきて、焦ったあたしは慌てて椅子から滑り降り、片手を斜めにコメカミにびしっとあて、敬礼する。

「お手洗いに、行って参る!」

「ぶはははは。なんだよ、それ。お前、どこの武士だよ」

 しまった。
 不覚にも、笑いをとってしまった。
 
「迎えにいってやるから電話寄越せよ?」

「ひとりで帰れまちゅ!」

 ……くっ。

 なによ、ちゅって。
 どこの赤ちゃんよ。

「柚ちゃん、そうでちゅか。ぶははははは」

 見逃してはくれない王様は、肩を揺すって大爆笑。

 あたしは断じて、王様を笑わせるために狙ったわけではないのだと、毅然とした態度をとろうとしたのだけれど、歩いた途端にふにゃふにゃとなって崩れかかる下半身。

 毅然どころか須王に惑っていて、腰砕け寸前になっていたことは一目瞭然だ。

 さらに笑い声が強まっているのを感じながら、屈辱に震えるあたしは、手洗いに向かったのだった。
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