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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
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今日は月曜日。
幾ら新HADESプロジェクトのために、須王の許可の元で自由に時間を使うことが出来るようになったとはいえ、週始めにはあたし達の会社エリュシオンに顔を出したいと、常々須王は言っていた。
特に、久我社長が比較的現れやすい月曜日は、社長に直接進捗状況を報告をしたいのだそうだ。
電話でいつも連絡しているようなのに、なぜ対面を願うのかよくわからないけれど、須王は王様でありながら、エリュシオンの社員でいたいのかもしれない。
あたしのように、会社に愛情を感じてくれているのかもしれない。
目覚めた日が月曜日だということを忘れていたあたしといえば、須王に起こされるまでぐうすか眠りこけていた。
……勿論それは、何度も求めてきた須王のせいなんだけれども、慌ててホテルを飛び出してスタジオに戻った時点で10時。
皆がにやにやして、やけにあたしと須王の肌つやがいいことを褒めちぎっていたが、それを無視して女帝を急かして出勤準備。
「なんで、出勤するって連絡いれてくれないのよ!」
女帝は化粧に時間がかかるため、ぶちぶち言われたけれど、昔のようにその言葉が、嫌味としてぐさぐさと心に突き刺さっては来ない。
「ごめん! 本当にごめんなさい! あたしも忘れてたの!」
男子禁制となったスタジオの洗面台の鏡には、洗顔したての顔をタオルで拭く女帝と、両手を合わせてぺこぺこと頭を下げるあたしが映っている。
もともとばっちりメイクをする女帝だけれど、出勤の時とスタジオでの時とは、基礎からメイクが違うらしい。
それでもきっちり10分で戦闘態勢となった元受付嬢の輝かしい美貌を見ていれば、あまり代わり映えしないあたしのメイク術が、いかに貧弱であるかがよくわかる。
まだ不調の小林さんを残し、棗くんの運転でアウディに乗り込む。
「なんで裕貴がいるの? 狭いじゃない」
真ん中に座る女帝が文句を言うが、制服を着た裕貴くんはにんまりと笑う。
「姐さんも柚も細いし! この車は大きいし、大丈夫だって」
……細いという言葉に、女帝は気分をよくしたらしい。
なんだかんだとこのふたり、姉弟みたいで仲がいい。