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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「病院に行くかどうかの判断は……棗くんや須王の判断に任せようと思う。特に須王は棗くんの発作にずっと付き合ってきたし、薬より須王の方が特効薬の気がするの。まあ発作の頻度が高くなってしまったら、強制病院送りしないといけないだろうけど」
「なんでああなるのかしらね。早瀬さんが特効薬になるというのなら、心因的なものなの? 棗、いつもは憎たらしいほどクールで嫌味な奴だけど、ああなるほどのなにかを抱え持っているということ?」
あたしはそれには答えられなかった。
「だけどまあ、とりあえずは……棗もあの発作があるから、人間臭くいられるのかもね」
女帝は呟く。
「ひとは、強がってばかりでは生きられないから」
「そうだね……」
「とはいえ、突然の豹変はなにか原因でもあるのかしら。だって、いきなりよ?」
あたしは須王とした会話を思い出す。
――奈緒さん、かかってきた電話の直後だって言ってたよね。
――昔の……関係者からか?
電話、か……。
「奈緒さん、電話で、棗くんの発作が起きる前に、棗くんのスマホに電話かかってきたって言ってたじゃない? それについて棗くんの反応はどうだった? 怖がってたとか、不思議そうにしていた、とか」
「電話……そうね。強いて言えば、固まっていたわね。応答しようとしないから、出たら?って私が言ったくらいだし」
「なんかスマホから相手の声とか聞こえたりした?」
「それは聞こえなかった。でも棗は一度も言葉を発さなかった」
……やはり、組織からの電話説は濃厚のようだ。
応答しなかったということは、きっと棗くんが知っている番号なりが表示されていたんだろう。
ということは、痕で棗くんのスマホから、電話番号を辿れば、棗くんを故意に貶めようとする人物の正体が、わかる……かも?
「……ねぇ、柚。あれ、なんだろう」
突然声をかけられて、あたしは顔を上げて、女帝が指さす方向を見つめた。
それは煙。
黒に近い灰色の煙が、天に向かって伸びている。
「火事?」
「近いわね?」
そしてあたし達は顔を見合わせ、同時に叫ぶ。
「「まさか裕貴(くん)の学校!?」」