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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
ここは高い塀に挟まれている小道だ。
ここからは、どこから煙が上がっているのかわからない。
「ねぇ、柚! 赤い火が出て来た!」
「ゆ、裕貴くんの学校だったらどうしよう!」
……なんだろう、この限りなく嫌な予感が実現しているような確信は。
「須王に報告する」
あたしは車の中にいる須王に声をかけた。
……正しくは、かけようとした。
だが、棗くんはしっかりと須王の服を握りしめていて。
須王も「傍にいる」と棗くんの背中をぽんぽんと叩いているのを見て。
裕貴くんの一大事だとは言い出せなかった。
須王は、裕貴くんか棗くんのどちらかを選ぶ選択をすることになる。
その時、須王の選択如何で、棗くんは「捨てられて」しまうかもしれない。棗くんは、この危機的状況を理解出来るような状況ではないから、須王が裕貴くんを優先すれば、唯一無二の拠り所からも見放されたと思ってしまうのではないか。
そんな疑念があたしの胸に広がったんだ。
「……柚、どうした? なにかあったか?」
突然の須王の言葉は、あたしに向けられたものだ。
背を向けていながら、なにも言わないあたしを疑問に感じたんだろう。
「ううん、なにもない。また外にいるね。……棗くん、よろしく」
やっぱりあたしは、誤魔化すことも出来なくて。
もうこれは、須王に頼らず、取り急ぎ裕貴くんにさらなる危機が迫っているのかどうかを、あたしが確認すべきだと思った。
「……柚。どうした?」
「なにもないよ」
「……柚」
須王のダークブルーの瞳が、バックミラーからあたしを捕らえようとしている。
「抱え込むな。なんのために俺がいる」
「……っ、須王は棗くんを……」
「棗は棗、お前はお前。どっちも俺は見捨てはしねぇ。そこまで俺、狭量じゃねぇつもりだ」
……ああもう、そんなことを言うのなら、あたしが悩んだ意味がないじゃない。捨てられる側は可哀想だって棗くんに同情しながら、優先されずに捨てられるのは、あたしもそうだと……密かに悲しく思う必要もなかったじゃない。
そして――。
「……ん? 煙臭いな……」
なにも言っていないのに、須王はすぐに気づいてしまう。
「――まさか、裕貴の学校が?」