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美しい人は雨の空港で
第1章 美しい人は雨の空港で






ほんの短い別離のはずだった。



けれども彼女とはそれきり、二度と会うことはなかった。








―――セックスはした。何度もした。









シックスナインの体勢で、たがいの性器を舐めあっては、恥ずかしげもなくたがいの顔にたがいの愛液をこすりつけあった。



付き合い始めの頃、膣内射精などティーンの若者のすることだ、などとうそぶきあっていたけれど、気づいたときには避妊具もなく、彼女の中で何度も射精した。



膣だけじゃない。口腔にも、手のひらの中にも、背中の肌にペニスをこすって逝ったこともある。



脇の下にローションをつけてペニスを挟み、しごいたこともあるし、逆に、翌日顎が凝るまで、クリトリスを舐め続けたこともあった。



会えないときはメイルを交わし、チャットで互いを興奮させ、携帯を手にベッドへもぐりこんでは、互いの卑猥な吐息を聞きあいながら、オナニーをした。



たがいに気取りがあった頃は、レストランやバァで飲んだ後に、シティーホテルに寄るというデートを繰り返したけれど、いつしか食事などはコンビニで買い込んで、ラブホテルに持ち込むものになった。



おたがい終電前には家に帰らなくてはならない立場だったし、お金に余裕があるわけでもなかった。



高級百貨店の広くて清潔な身障者用トイレでもしたし、会社のトイレの個室で、携帯メールを送りあってすることだってあった。



















美しい人は、去り際に、行き先の天気の話をした。



東京は雨だったけれど、その街はもう、低気圧が抜けた模様だ。



短い逢瀬の瞬間が、走馬灯のように駆け巡る。



かける言葉も見つからず、また、触れることさえはばかられた。



激しく燃えて、瞬く間に消えた。口をついででかかった言葉はついぞ、行き先を見つけられずに終わった。



そして彼女はクリーム色の旅行鞄をひきながら、ゲートに消えていった。



美しい人は雨の空港で、濃密な性の想い出をぼくに置き去りにして、去っていった。



この先一生、あのスレンダーな後姿に片思いをするだろう、と思っていた。






















Dedicated to the souls of the passsengers of JAL 123







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