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青い残り火
第4章 第4章
初恋

まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな


カツカツと板書する西崎澪の背中を見ているものは誰もいない。机につっぷして寝ている者、携帯を弄っている者、漫画を読んでいる者もいる。

「テスト範囲まで終わってるんだから自習させてくれたらいいのに……」

「マジ空気読めないやつ」

「さすが辞書だよな、ははっ」

一馬達の私語が聞こえないのか、西崎はペースを崩さずに最後の第四連までを書き終えた。


林檎畠の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ


「これは、島崎藤村の初恋です。中学校で習ったという人いますか?」


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