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青い残り火
第5章 第5章
「いいのこれは」
美しい顔だった。長い睫毛に守られた鳶色の目は強く何かを訴えていた。整った眉、すっと伸びた鼻筋、硬く結ばれた唇。その毅然とした表情は、いきなり一馬の胸をどんと押しのけたのだった。
「なんだよ……」
その痛みが今、息を吹き替えしたように襲いかかってくる。
素顔の西崎が心に刻み込まれ、その前髪は風で後ろになびいた。
昨日までの、誰の興味もひかない教師の立ち居振る舞いが、なぜか今、優雅な佇まいとして一馬の中に熱を刻みだした。
「なんだよあいつ……」
一馬は舌打ちして携帯電話を取り出した。
──美弥さん、走って帰ったけど、すっかり雨が上がってしまって残念です
ではまた明日
おやすみなさい
──芽衣、遅くにごめん
今度またパフェ食べに行こうな
それだけ
おやすみ
それぞれにハートマークを付けて送信し、一馬は入ってきた電車に乗り込んだ。
なにやってんだ俺……
吊革に掴まり、流れてゆく外の明かりを眺めた。メールの着信に気付きながら、彼は白やオレンジの光りを追い続けた。
暗闇に西崎澪の顔が浮かぶ。
立ち入る隙のない、美しい人の顔。