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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「お前さ、女子からやたら嫌われてるけど、大丈夫なわけ?」
洋介の言葉に「あぁ」と生返事をする。
大丈夫か・大丈夫じゃないかで言えば、「大丈夫」なんだけど。
大丈夫じゃないのは、グループ課題のときくらいか。まぁ、それも少しの間、我慢すればいいだけ。
「どうせ由加だろ。噂流してんの」
「酷いぜ? 女と遊びで付き合ってるとか、女を取っ替え引っ替えしても罪悪感すらないとか」
「……あー、事実だしな」
洋介は呆れている。学園からの八年来の同級生は、俺の性格をよく知っている。だから、口調もあかりと喋るときとは全く違ってしまう。男同士ならそんなもんだ。
こういう噂は昔からよくあった。何しろ、上場企業の創設者の息子だということで女は勝手に寄ってきたので、遊び相手には事欠かなかった。そして、飽きたら別れる、という関係だけを誰とでも継続していた。
「結婚を全く考えていないとか」
「ハタチで考えるもんでもないだろ」
「孕ませても責任取らないとか」
「失敗するほど馬鹿じゃねえよ。てか、何だ、それ」
ようやく、俺は顔を上げる。ニヤニヤ笑っている洋介と目が合い、ゲンナリする。ほんと、何だそれ。誰が誰を孕ませたって?
「ま、最後のは俺の嘘だけど」
「消えろよ、クソ洋介」
「で、何で合コン来ねえの?」
「行かなくても良くなったから」
「はっ!? 誰と付き合ってんの!?」
身を乗り出して、洋介が食い気味に聞いてくる。カップに入ったコーヒーが揺れる。半分くらい残ってんだぞ。零すなよ、お前。
大学内にある食堂の中、美味しいコーヒーを飲みながらスマートフォンを操作していた俺の対面で、好奇心旺盛な親友が目をキラキラさせている。
洋介に嘘をつくと面倒くさいことになるのでやめておこう。素直に話したほうが得策だ。