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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「……歳上のおねーさん」
「また歳上かー。学園のときは歳上ばっかりだったなぁ。あれ、しのちゃんに相手にされなかったからだろ?」
「うるせえなぁ。しのちゃんは関係ないだろ」
篠宮先生ことしのちゃんは学園中の男子生徒憧れの的だったんだ。俺も憧れていた。別にいいだろ。高校生なんてそんなもんだ。
しのちゃんに憧れるあまり歳上ってどんなもんかと思って何人か付き合ったこともあるけど、なんて言うか、普通だった。大人の余裕とか包容力とかがあるかと思ったけど、束縛してくるだけの女のほうが多かった。
「まぁ、まだ付き合ってるわけじゃないんだけど」
「また遊びか?」
「遊びでいいってさ」
「へ? 遊びでいいって、向こうが縋ってきたわけ?」
……いや、むしろ、俺が縋ったほうなんだけど。初めてだよ、本当に。
だってさ、今、スマートフォンで何をしているのかって……あかりからの連絡待ちの間に、彼女に似合いそうな服やアクセサリーを調べているんだから、本気でイヤになる。どれだけ、気になってるんだか。
「誰にも本気にならない女を本気にさせる方法って、洋介知ってる?」
「……お前、それを童貞の俺に聞く?」
「だよな。聞いた俺がバカだった」
温いコーヒーを飲む。外は寒いが、食堂の中は暖かい。どこの食堂でも美味しいコーヒーが飲めるのはありがたい。
「ってことは、翔吾が本気になってんの? 珍しい、っていうか、初めてじゃね?」
「……初めてだよ。だから、聞いてんの」
あんなに離れがたいセックスは初めてだったし、あんなに惹かれる女も初めてだった。
でも、そう思っていたのは俺だけ。
あかりは全く気にしていなくて、ラブホテル代を支払ってさっさと帰ろうとするし、連れて行った店ではワンピースもアンゴラのコートも自分で支払おうとするし、ランチ代も割り勘がいいと言うし……俺の財力になびくことはなかった。
結局、夕食の二千円もしっかり手渡されて、笑顔で帰っていく彼女を見送るしかなかった。別れ際にハグとかしたかったのに、本当にセックスだけなんだなと、痛感した。