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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
久しぶりの東京だ…。
行き交う人の言葉が翻訳なしにすんなりと耳に馴染む。
…だが、縣に感傷に耽る暇はなかった。
家には帰国を連絡していなかったので、当然迎えの車はない。
埠頭からタクシーを拾い、真っ直ぐ神谷町の麻宮邸に向かう。
…タクシーは鬱蒼と繁る林を抜け、ようやく麻宮邸の門を潜った。
チューダー様式の広大かつ、優美な大邸宅…。
麻宮侯爵が、高名な英国建築家に設計させたという素晴らしい建物を、タクシーから降りながら縣は見上げる。
松濤の縣の屋敷も相当に大きいが、それを上回る豪奢な邸宅だ。
以前、夜会に招待され数回訪れたことはあるが今日は特別な思いを抱えての訪問である。
縣は緊張した面持ちで襟を正し、広い玄関のベルを鳴らす。
すぐに中から顔なじみの執事が応対に現れた。
縣を認め、やや驚いた顔をする。
「…これは…縣男爵様、男爵様はパリだと伺っておりましたが…」
光に聞いたのだろうか。
はやる気持ちを抑え、縣は笑みを浮かべる。
「…事情があって急遽帰国したのだ。…光さんはご在宅だろうか?お約束なく伺って申し訳ないが、ぜひお会いしたいのだが…」
縣の言葉を受け、執事は心底申し訳ない顔をしながら、答えた。
「…申し訳ございません。縣男爵様。
生憎光様は今、こちらにはおられません」
縣は驚きに眉を上げた。
「…では、どちらに?」
執事は恭しく答えた。
「…麻布の北白川伯爵家にご逗留されていらっしゃいます」
行き交う人の言葉が翻訳なしにすんなりと耳に馴染む。
…だが、縣に感傷に耽る暇はなかった。
家には帰国を連絡していなかったので、当然迎えの車はない。
埠頭からタクシーを拾い、真っ直ぐ神谷町の麻宮邸に向かう。
…タクシーは鬱蒼と繁る林を抜け、ようやく麻宮邸の門を潜った。
チューダー様式の広大かつ、優美な大邸宅…。
麻宮侯爵が、高名な英国建築家に設計させたという素晴らしい建物を、タクシーから降りながら縣は見上げる。
松濤の縣の屋敷も相当に大きいが、それを上回る豪奢な邸宅だ。
以前、夜会に招待され数回訪れたことはあるが今日は特別な思いを抱えての訪問である。
縣は緊張した面持ちで襟を正し、広い玄関のベルを鳴らす。
すぐに中から顔なじみの執事が応対に現れた。
縣を認め、やや驚いた顔をする。
「…これは…縣男爵様、男爵様はパリだと伺っておりましたが…」
光に聞いたのだろうか。
はやる気持ちを抑え、縣は笑みを浮かべる。
「…事情があって急遽帰国したのだ。…光さんはご在宅だろうか?お約束なく伺って申し訳ないが、ぜひお会いしたいのだが…」
縣の言葉を受け、執事は心底申し訳ない顔をしながら、答えた。
「…申し訳ございません。縣男爵様。
生憎光様は今、こちらにはおられません」
縣は驚きに眉を上げた。
「…では、どちらに?」
執事は恭しく答えた。
「…麻布の北白川伯爵家にご逗留されていらっしゃいます」