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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
「…月城…」
縣はやや驚いた。
礼儀正しく作法を遵守する彼が梨央の名代とはいえ、不意に現れることは初めてだったからだ。
差し出されたクリスマスローズはエーデルワイスを思わせる洗練された西洋花の白さを誇る、美しくも嫋やかな花であった。
「…ありがとう、月城。わざわざ君が届けに来てくれたのか」
「はい。こちらのお花は梨央様が、丹精こめて育てられました。一番最初に咲いたお花を是非、縣様に差し上げたいと仰いましたので、私が名代でまいりました」
縣は表情を和らげる。
「…梨央さんは緑の指をお持ちだな。見事なクリスマスローズだ」
そして、月城の背中に手を置きながら
「クリスマスツリーの飾り付けをしていたのだ。弟と…」
暁を紹介する。
もう何度か対面したことがある二人は親し気に笑みを交わす。
「見事なクリスマスツリーですね。天井のフレスコ画に着きそうだ」
月城は見上げて感嘆する。
「立ち話も何だ。さあ、中に入って一緒にお茶でも飲もう」
執事の生田に案内させようと手を挙げた時、月城が腕の中のクリスマスローズを見つめ、尋ねた。
「…縣様、この花の花言葉をご存知ですか?」
縣は動作を止める。
「…いいや…」
「…追憶です」
「…追憶…」
月城は白手袋を着けた美しい指でそっと花の花弁に触れる。
「ええ。…美しい言葉ですが、二度と取り返すことができない言葉です」
縣は眉を顰めた。
「…月城…?」
月城が、ゆっくりと顔を上げ縣をひたと見つめた。
「…光様のお見合いが今、北白川家で行われています」
縣は思わず手に持っていた金の星のオーナメントを取り落とした。
大理石の床に転げ落ちたそれが高い音を立てる。
暁が固唾を呑んで、縣を見つめる。
「…そうか…」
掠れた声が喉の奥から漏れる。
「…大変僭越ながら申し上げます。
…縣様、このままでよろしいのですか?縣様と光様の間に追憶という美しい想い出だけが残されるようになって…果たしてそれでお二人はお幸せなのでしょうか…?」
縣の目がはっと見開かれる。
「…月城…」
月城は落ちた金の星のオーナメントを拾い上げ、ツリーに丁寧に飾る。
そして、ゆっくり縣を振り返り、静かに語り始めた。
「…今から私が申し上げることは今日限りでお忘れ下さい。一介の名も無き執事の想い出語りでございます…」


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