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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
フロレアンは如才なく夫人のドレスを褒めたのちに、マレー子爵に話しかけた。
「子爵はどちらにお泊まりですか?」
「ロテルだ。…アンリエットがオスカー・ワイルドの大ファンだからね。どうしてもゆかりのあるオテルに泊まりたいとせがまれてね」
「私は友人のお屋敷にお邪魔したかったのですけれど…アンリエットがパリのお屋敷は格式ばっていて気詰まりだと」
夫人が苦笑しながらも愛しげにアンリエットを見る。
どうやら年齢を重ねてから得た子供らしいアンリエットを溺愛している様子だ。
フロレアンはヒカルの肩を抱きながら屈託無く話す。
「ヒカルは今、ロッシュフォール侯爵家でお仕事をしているのです。先ほどお茶をいただきましたが、別宅とはいえ素晴らしいお屋敷でした」
夫人は目を輝かせる。
「まあ!ヒカルさんはロッシュフォール侯爵家とご懇意でいらっしゃるの?」
「…はい。私の友人がロッシュフォール家のご長男と親友で、そのご縁で働かせていただいています」
「ジュリアンね、存じておりますわ。昔、私の実家も7区にありましたからロッシュフォール家とはご近所でしたのよ。そういえば、ジュリアンのお母様は日本の方だったわね」
夫人が納得したように頷く。
「ヒカルも日本では侯爵令嬢なんです。…全く、僕にはもったいないような人です」
フロレアンは甘い蜜のような眼差しで光を見つめる。
アンリエットが小さな手をぎゅっと握りしめたのが光の眼の端に入った。
「それは素晴らしい!美しく由緒正しい日本のお姫様なのだね、ヒカルさんは…。フロレアン先生と良くお似合いだ。さあ、我々ももうこれ以上お二人のお邪魔をするのは野暮というものだ。アンリエット、ルイーズ、失礼しよう」
マレー子爵はアンリエットに言い聞かせるようにゆっくりと話し、フロレアンと別れの握手をした。
「…フロレアン先生、それでは休暇明けにプロバンスでお会いしましょう。どうか短いバカンスをお楽しみください」
マレー子爵は帽子に手をやりながら、その場を紳士らしく後にした。
アンリエットはフロレアンに別れの握手をするといつまでも名残惜しげに振り返りながら、ようやく両親の後を追った。

「ね、良い方達だろう?僕はラッキーだったよ」
フロレアンは無邪気に笑う。
「…ええ、そうね…」
そして
「アンリエットさんにはラッキーだったかはわからないけれど…」
聞こえない声で付け足した。
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