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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
優雅なヨハンシュトラウスの調べに乗り、縣と光はワルツを踊る。
縣のリードは光を優しくサポートし、驚くほど巧みで滑らかで実に踊りやすかった。
光は眼を見張った。
「縣さん、ダンスがお上手ね」
「ありがとう。…大学時代、校内のダンス選手権で優勝したことがあるんだ」
「貴方は何でも出来るのね」
光は、きらきら輝く瞳で縣を見つめる。
ダンスの高揚感からか頬は薔薇色に染まり、匂い立つような美しさがそこにはあった。
縣はそんな光を眩しそうに見つめる。
「…少しは見直した?」
「あら、もう随分前から貴方を見直しているわ。…と言うか…私は貴方が好きよ、縣さん」
光の手を握る縣の手に一瞬力が入る。
「…あんなに嫌っていたのに?」
わざと揶揄うように尋ねる。
「最初から嫌ってなんかいないわ。…私を嫌っていたのは貴方の方でしょう?」
「私も君を嫌ったことなど一度もないよ。ずっと君のことは美しく賢く強く素晴らしい女性だと感心していた」
光は信じられないように眉を寄せる。
「本当に?」
「本当さ」
「私もよ。…15歳で初めて会った時に、とてもハンサムで紳士で素敵な方だと思ったわ。でも、癪だから口にしなかったの」
縣と光は見つめ合い、少し照れたように笑い合った。
「…それは残念。…君がフロレアンに出会う前に聞きたかったな」
縣の目がじっと光を見つめる。
そこにはいつもの茶化した表情はひとつもなかった。
澄み切った黒い瞳を見つめ返している光の胸は思わず高鳴った。
そのときめきを誤魔化すかのように、光は改めて縣に尋ねた。
「…貴方に助けられたのはこれで二度目ね」
「うん?」
「…ピガールのヌードショーと今回と…フフ…貴方にはみっともないところばかり見られてるわね…」
「みっともなくなんかないさ。君はいつも真摯に生きている。…その姿はとても美しい」
「縣さん…」
縣はまるで愛の告白をするかのように、光の目を見て囁く。
「…私は君が傷つくのだけは見たくなかった。それだけだ」
「…縣さん…」
光は何かを言いかけふとそれを諦め、その代わり縣の目を見つめたまま踊り続けた。
美しいワルツを踊る二人に会場の人々はいつの間にか魅せられ、羨望の眼差しとため息を与えたのである。

「…あの二人は…いいえ、いいわ。秘すれば花ね」
「…?お祖母様?」
ロッシュフォール夫人はジュリアンに囁き、そして密かに微笑んだ。



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