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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第2章 憧れの……
「──…帰ってこないほうが良かった?」
花菜が通れるように廊下の端に避けながら、思いがけなさが滲む声で問いかける。
もとからの落ち着いた喋り方のせいもあって青年の声色は少し寂しそうだ。
「そ、そんなわけないよ!」
それを感じた花菜は即座に否定しつつ廊下を通りすぎた。
廊下の壁に張りついている彼とのすれ違いざま──リネン生地の白いTシャツの背中から香水が仄かに香った。
学校の男子が付けている匂いとは全然違う。ギラギラしていない大人の香り。
“ なんだか安心する…伊月お兄ちゃんの匂い ”
少し赤らんだ頬を見られないように彼女は部屋の奥へと急いだ。
「そりゃあ帰ってきてくれたほうが…っ、嬉しいよ」
「なら良かった」
妹の素直な返事を受けて、兄の伊月( イツキ )は安堵とともに微笑んだ。