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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
 さりさりと墨。
 「……」
──思い返せば──こうなるまで、本当に長かった。
 あらゆる世界を巻き込んで、誰かを傷付け、自らも傷付いて、各々がようやく得た穏やかな時間。その長い時の中で恋をした二人は、それをやっと楽しみ始めている。
 だから自分もまた、ここに在る者達と過ごす、朗らかな時を楽しみたい。それが新世にある、禊のひとつの願いでもあった。

 ……視線を動かせば、その先には畳上の日だまり。
 朝、どこか腫れぼったいような目をして笑っていた主に、この泣き笑いのような空が重なったのは偶然だったのだろうか。狐の話も出来すぎている。
 けれど今、この光と影が織り成すこの上なく美しい、稀なる衣の世界を見て、誰が凶事を思い起こせるというのだろう。
 摺り上がった墨の匂いが、水気を帯びた空気に薫り高く広がる。
 「では、ご存分に」
「おう、任せとけ!」
「ふふ──起きたらちゃんと、夜更かしのお説教してあげなさいよね」
そうして禊は、恋敵へのせめてもの復讐に、筆と墨とを「御友人」方に託しその場を後にする。
 万物生。
 これからますます温んでいくであろう日向の中には、仲睦まじく肩を並べ、薄い羽織を腹に分け合って無防備に昼寝をする、日嗣と神依の姿があった。



2020.11.29

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