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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第4章 傘爺
 祖父の代に建てられ父母のためにリフォームした家は、今はもうそこここに古びた影を落としている。孤独という空間の色。老いという時間の色。締感すらない、ただ音もなくにやけるだけの悪魔と同居しているような虚ろな感覚だった。
 いつ取り込んだのかもう記憶にもない、和室の長机に無造作に重ねたままの洗濯物。もしも妻が見たら何と言うだろう。今となっては、小言すらいとおしい。
 鞄はどこへ置いただろうか。薄暗い廊下を進み玄関へ向かえば、曇った磨りガラスから褪せた白の光が射し込んでいた。しかしそれは余計に背後の暗闇の色を濃くするだけで、何の慰めにもならない。
 小銭入れだけズボンのポケットにあることを確認して靴べらを取れば、靴箱と傘立ての隙間に萎れた蜘蛛の巣が埃と共に丸かっているのに気付いた。
 もはや虫すら住まない家。
 掃除は、もういい。どうせこちら側からしか見えない。どうせ誰も来やしない。靴箱の上の花も、妻がいなくなってからは枯れたままだ。新しいものを買う気力も金もない。
 (私は、怠惰だったのだろうか。そんなだから──)
考えていたら、いつの間にか外に出ていた。
 家も、庭も。昔は新しく、美しかったのに。今はすべてが灰色の世界。
 (雨のせいだ)
今日だけじゃない。今までも、これからも。
 気付けば手には、水色の傘が握られていた。
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