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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
──プツリ。
「……っひ……!!」
「優沙(ゆさ)様!」
部屋のどこかから聞こえてくる繊維が千切れる音に、優沙は弾かれたように顔を上げ暗闇を見回した。その音はいつまでもいつまでも優沙の耳に残り、今も優沙を追いかけてくる。
加えて狂ったような花の芳香が壁や扉、玻璃の隙間から染み出し、嗅覚や味覚を破壊しては優沙を追い詰める。
残されたのは触覚……だが、肌に刻まれた赤黒い印は、もう季節も変わるというのに一向に消えはしない。あれほどに優沙を求め胸に抱いた神々も、これが肌に刻まれてからは誰一人降りては来なかった。祈っても願っても乞うても、誰にも助けてもらえない。この呪われた朱印は日に日に優沙を蝕み、今や右腕すべてを赤く腫れ上がらせていた。
いつか私は、このまま右腕から腐って死んでいくのではないか。それとも──それともこの右腕をプツリと手折れば、もぎ取れば許して貰えるのだろうか?
「……ううぅ」
思えば本当にそれが真実な気がして、恐怖に体が震え、嫌な汗が肌に滲む。
また──プツリ。
「いや……もう、嫌……。嫌よぉ……ッ!!」
「優沙様」
耳を塞いで踞る優沙を、禊がぎゅ、と抱き締める。
「……っひ……!!」
「優沙(ゆさ)様!」
部屋のどこかから聞こえてくる繊維が千切れる音に、優沙は弾かれたように顔を上げ暗闇を見回した。その音はいつまでもいつまでも優沙の耳に残り、今も優沙を追いかけてくる。
加えて狂ったような花の芳香が壁や扉、玻璃の隙間から染み出し、嗅覚や味覚を破壊しては優沙を追い詰める。
残されたのは触覚……だが、肌に刻まれた赤黒い印は、もう季節も変わるというのに一向に消えはしない。あれほどに優沙を求め胸に抱いた神々も、これが肌に刻まれてからは誰一人降りては来なかった。祈っても願っても乞うても、誰にも助けてもらえない。この呪われた朱印は日に日に優沙を蝕み、今や右腕すべてを赤く腫れ上がらせていた。
いつか私は、このまま右腕から腐って死んでいくのではないか。それとも──それともこの右腕をプツリと手折れば、もぎ取れば許して貰えるのだろうか?
「……ううぅ」
思えば本当にそれが真実な気がして、恐怖に体が震え、嫌な汗が肌に滲む。
また──プツリ。
「いや……もう、嫌……。嫌よぉ……ッ!!」
「優沙様」
耳を塞いで踞る優沙を、禊がぎゅ、と抱き締める。