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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
 それに倣うように近付いてくる童に、禊はいつも三人が一緒であることを示すようにもう片方の手で抱き寄せた。
「……大丈夫、天井の木の繊維が弾けただけの音です。何も怖いことはありません」
「……優沙様、……九ノ兄(くのえ)」
ぐすぐすと泣きじゃくる優沙に童も声を掛け、また不安そうに禊を見上げる。禊は主を宥めるように笑みを浮かべながらも、やはり不安と……疲労をその目に浮かばせていた。
 三人を照らすのは、ただ一本の蝋燭。今はもはや、昼も夜もこの蝋燭だけが三人を照らす唯一の灯りだった。
 しかしそれは希望の灯とはいえない。ぱたぱたと、溶けてはやがて崩れていく。それは水に浮かぶ芥のようだった。



 その頃の優沙は一日中、家の中に閉じ籠っていた。雨戸も開けず、窓も開けず、それどころか黒い布や紙を糊で貼り付け、或いは粘土などで家中のあらゆる隙間という隙間を内側から埋めていた。
 そして一人になるのを嫌い、自身の禊である九ノ兄からとにかく離れようとしない。
 必然的に日常の家事や雑務は童──九ノ弟(くのと)に回ってくることになるのだが、童は童で毎日、決して少なくはない時間を匠の元に通って働かなくてはならない。
 正直──負担だった。
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