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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第2章 桂楫
噛みしめるように呼ばれた自身の名は、耳にもどこか心地好い。またそれは、長らく慣れた共同体に在った優沙には久しぶりに味わう、新鮮でこそばゆい感覚でもあった。
きっと、いずれはそんな甘い呼び方ではならなくなるのだろうけど。自分の遥か頭上で黄金を、幾重にも巻かれた玉の飾りを纏い、真白の絹、錦の綾を翻す頃には、きっとそんな愛らしい言葉は許されなくなるのだろうけど。
ならば今ばかりは彼女が望むような、ほのほのと甘く柔らかい幼さを残した、純真な在り方のままで過ごすのも悪くないかもしれない。
(きんとんみたいだけど)
「──よし、じゃあそうと決まれば、早速楽器を見に行きましょう。御令孫は何がお好みかしら。ううん、今ならきっと、神依が弾くなら何だっていいはず。ついてきて!」
「えっ──ま、待って……優沙ちゃん!」
そうして勢いよく立ち上がる優沙に、つられるようにして慌てて神依も立ち上がる。ドタバタと忙しなく遠ざかる足音に何事かと童達が振り返れば、残された兄貴分二人は顔を見合わせ、更にどちらともなく頭を下げ合うと、いかにもやれやれといった風に立ち上がり並んで部屋を後にしていった。
きっと、いずれはそんな甘い呼び方ではならなくなるのだろうけど。自分の遥か頭上で黄金を、幾重にも巻かれた玉の飾りを纏い、真白の絹、錦の綾を翻す頃には、きっとそんな愛らしい言葉は許されなくなるのだろうけど。
ならば今ばかりは彼女が望むような、ほのほのと甘く柔らかい幼さを残した、純真な在り方のままで過ごすのも悪くないかもしれない。
(きんとんみたいだけど)
「──よし、じゃあそうと決まれば、早速楽器を見に行きましょう。御令孫は何がお好みかしら。ううん、今ならきっと、神依が弾くなら何だっていいはず。ついてきて!」
「えっ──ま、待って……優沙ちゃん!」
そうして勢いよく立ち上がる優沙に、つられるようにして慌てて神依も立ち上がる。ドタバタと忙しなく遠ざかる足音に何事かと童達が振り返れば、残された兄貴分二人は顔を見合わせ、更にどちらともなく頭を下げ合うと、いかにもやれやれといった風に立ち上がり並んで部屋を後にしていった。