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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
 春の夕焼けは花の色を纏い、艶姿に変わる間際の女の肌の様をしている。
 その女の姿を思い浮かべた日嗣は、ふと顔の端々にほのかに笑みを湛えた。そんなことを感じられるほど、自分は変わったのだとこうして時折気付かされる。
 ──八衢(やちまた)。いつもの石の台座から淡島を見上げれば、そんな花宵の色が不思議な空気感を作り、空水に浮かぶ島々の姿を照らしていた。まるで沫(あわ)に閉じ込められたような世界。
 けれども風に乗って漂ってくる穀物のほころぶ香りが、地に根付いた、人の営みの存在をしっかりと示してくれている。
「……」
それら全てが、今の日嗣には素朴にいとおしく感じられるもの。劇的な変化は無くとも、一粒一粒……それらは日々の生活の中で日嗣の魂の力となって、神としての力を象っていく。
 その甘やかで柔らかな命の端を、人々の日々の暮らしと共に受け取ることができるというのは──この上なく、幸いなことだった。
 人も神も満ちた世界。
 「──お、もうこんな時間か~」
不意に傍らから聞こえてきた友の声に振り返れば、猿彦は竿を上げ立ち上がり、うーんと大きく伸びをしていた。
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