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恋いろ神代記~神語の細~(おしらせあり)
第3章 誓約
 釣果はいつも通り。猿彦の魚籠(びく)は、いつ見ても新品のように綺麗なままだ。
 二人は沫色の雲海をゆるゆると歩み、家路に着く。猿彦が創る跳び石の道は、以前より歩幅が狭い。
「最近じゃあお前の方が飯時に敏感だな。嫁さんの料理の腕は上がったか?」
「ああ──まだ大半は、禊と童の飯だがな」
「なんだ、一人で立たせてもらえねえのか」
「神依一人で立たせると、米が粥で出てくる」
「そりゃまあ、……水神の加護だな」
「そうだな。一本芯の残る、神依らしい粥だ」
それに猿彦はけらけらと笑い、きっと今ごろ自身の禊にしごかれながら試行錯誤しているであろう少女の姿を思い浮かべる。
 神饌(しんせん)の支度は巫女や覡(おかんなぎ)の役目だ。今やこの友だけの巫女となった少女は、淡島で生活するようになった神のため、朝晩と奮闘しているようだった。
 思い描くだけでもなんと幸せな光景だろう。事実、淡島に降った友は、昔と比べると穏やかな目をするようになっていた。剥き身の刃が、ようやく鞘を見付けたような。
 時折高天原に上がる猿彦は、田植えの時期を前に、今年の米もさぞや甘くなろう美味くなろうとくすぐったい言祝ぎが交わされていたのを知っている。
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