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狂い咲く花
第25章 二、葡萄 - 宵と狂気
何事もなく、日々は過ぎていく。
あの日の事は誰も何も言わない。
皆が笑顔の下に本心を隠して接していく。
それが麻耶と南和の心の闇を大きくしているとも知らずに…

「こんにちは、美弥」

ガラス戸が開き、縁側で本を読んでいる美弥に幸信は声を掛ける。
いつも通り優しい笑顔を向けられるが、その笑顔が苦く、まともに目を見られずに逸らしてしまう。
その少しの反応を幸信は見逃さなかった。

「どうかしたのですか?」

美弥の頬に触れて、いつものように口づけをしようと顔を近づけた。
しかし、いつもなら目を閉じて触れられるの待つ美弥は、顔を背けて口づけを拒む。
気持ちが葉月に向いているのに、流されるわけにはいかなかった。

「本当に、どうしたんですか?」

拒んでも、幸信は優しく接する。
一度は手を取ろうとした相手だけに心苦しくなる。
まだ、葉月と将来が決まったわけではない。
麻耶がすんなりと葉月を手放すわけがないと分かっている。
しかし、中途半端なまま幸信と過ごすのは彼に失礼だと思えた。

「あっ…あの…話したいことがあるんです…」

どう話していいかわからず言い淀む。

「大丈夫ですよ…時間はたっぷりとありますので、ゆっくりで」

その優しい言葉さえ苦しくなる。

「それよりも、上がってもいいですか?ここでは私が濡れてしまいます」

そう言われて慌てて中に入れる。
昨日から激しい雨が続いていた。
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