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狂い咲く花
第27章 三、彼岸花 - 悲しき思い出
「兄は何もしりません。身籠っていたことも亡くなったことも。…それでいいと思っています。兄には兄の道があります。決められた道かも知れませんが、今は子供をもうけ兄なりの幸せを手にいれています。」
「そんな…」
彼女の想いが、幸信の想いが美弥の心を覆い隠す。
何も知らずに幸せになっているお兄さんを恨めしいとも思える。
「美弥が気に病むことではありません。彼女の一番の願いが兄の幸せでした。それは果たされた…だったら私が彼女の願いを破ってもいいと思いませんか?」
いらずっ子のように片目をつむって伝える言葉とは裏腹に、その意味の残酷さに美弥は心が締め付けられる。
「最後に一つだけ…南和くんには気を付けてください…彼の心の中には何か闇があるような気がします…愛は闇を生み、闇は憎しみを生む…人の心を軽んじれば相手は鬼と化す…どうかこの言葉を忘れないで。そして決して葉月さんの手を離さないでください。あなたには幸せになってほしい…」
その不思議な言葉を残して幸信は美弥の目の前から姿を消した。
その後、彼の姿を見かけることはなかった。
生きているか死んでいるかさえ分からない。
どちらを選んだとしても彼が幸せならそれでいいと、美弥は思った。