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狂い咲く花
第30章 三、莢蒾 - 無視したら私は死にます
「麻耶…蘭子は俺が育ててもいい…。一人になって自由に生きて…偽りの夫婦は終わりにしよう…」

最後の言葉を口にする。

「やっ…」

麻耶の身体に力が入る。
荒い息をしながら麻耶は葉月に告げる。

「葉月のいない人生なんて意味がないよ…葉月がいないなら生きている意味もない…死んだほうがまし…」

「そんなこと言わないでくれ…死ぬなんて…」

そう口を開いた時に麻耶の様子が変だと葉月は漸く気が付く。
言い知れぬ不安が込み上げ、嫌な予感しかしなかった。

「麻耶…」

土間に降りて麻耶に近づく。
少し近づけば、今何が起きているのか葉月の目に飛び込んでくる。
麻耶が持っている包丁が胸に向き、そこから麻耶の血が包丁から手をつたい、今にも落ちようとしていた。

「麻耶!!」

咄嗟に、麻耶の手を握りしめて、深く突き刺さらないように止めた。

「離せ!!!」

強い口調で怒鳴っても麻耶は首を横に振り、包丁から手を離そうとはしない。
いつもなら葉月の力でどうにでもなるはずなのに、今はびくとも動かなかった。

「麻耶…いらない子だもん…葉月と一緒じゃなきゃ生きている意味ないもん」

――だから死なせて。

と、口に出さずとも先の言葉は葉月に届く。
その儚げに見上げる麻耶を見て葉月の心はまた揺らいでいく。
この手を離せば確実に命を落とすだろうと、これが狂言でもないことは見れば分かった。
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