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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
「…久しぶりだね。元気そうで良かった…。今日は伯爵の馬の馴らし?」
暁は嬉しそうに月城を見上げて、声を弾ませる。
「はい。…旦那様が昨日、ご帰国されましたから、今週末辺りに遠乗りに行かれるのではないかと思いまして」
暁の輝くような微笑みを見て、月城はやや眩しそうな顔をする。
礼也の美貌の弟の暁に会うのは半年ぶりくらいだった。
春の明るい光の中で、暁は極上の仕立ての黒の乗馬ジャケットに襞がたっぷりあしらわれた白いシャツ、黒いリボンタイ、細腰が強調される白い乗馬ズボンに革の黒い長ブーツというまるでお伽話から抜け出てきたような麗しい姿をしていた。
パドックをしながら、ちらちらとこちらを見る若い令嬢が多いのも頷ける。
…また一段とお美しくなられた…。
美しい貴人は月城が仕える梨央で見慣れているはずなのに、暁を見る度にその美しさに見惚れてしまう。
それは造形の美とはまた別に、やや湿った淫靡な色香のようなものを感じ取れてしまうからに違いない。
「そうか…。梨央さんはさぞお喜びだろうね。半年ぶりのご帰国だもの」
優しく主人を気遣ってくれた暁を嬉しく思う。
そして月城は、暁の出で立ちを見ながら尋ねる。
「…暁様は、今日は馬場馬術のお稽古ですか?」
暁は障害馬術に専念していたはずだが…と思ったのだ。
それに対して、苦笑しながら暁は答えた。
「…実は先月の障害馬術の予選で落馬して、少し意識を失ったんだ」
月城は目を見張る。
「大丈夫だったのですか⁈」
暁は恥ずかしそうに笑う。
「軽い脳震盪だよ。念の為にと病院に運ばれてしまったら、知らせを受けた兄さんが飛んできて…」

…商談も中断して病院に駆けつけ、病室に飛び込んで来た礼也はベッドに横たわる暁を見るなり、叫んだ。
「大丈夫か⁈暁!どこを打ったんだ⁈」
慌てて起き上がり、説明しようとする暁の肩を抑え、
「起きては駄目だ。安静にしなさい」
と、ベッドの中に押し込んでしまう。
「軽い脳震盪です。もう大丈夫です」
兄を安心させようと答える暁に、礼也は真剣な眼差しできっぱりと宣言した。
「…もう障害馬術はやめなさい。お前が落馬して、病院に運ばれたと聞いてどれだけ心配したことか…。もうこんな思いは沢山だ。…大体、障害馬術に転向するのも最初から反対だったんだ。危険すぎるからね。…馬場馬術に戻りなさい」
暁は呆気に取られる。
「兄さん…!」

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