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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
今日は…
「春馬を午後のお茶に招いたよ。…本当は婚約者も連れて来いと言ったんだが、なぜか頑なに拒否されてね。…何なんだ、あいつは。親友の私に紹介するのが嫌なのか」
冗談交じりに笑う兄に、暁は小さく微笑む。
…大紋は暁に気を遣ったのだろう。
…そういう人だ…春馬さんは…
慣れた胸の痛みが再び疼く。

まだとても大紋と顔を合わせる気になれなくて、暁は馬場に出かけたのだ。
「…春馬に会わなくていいのか?…最近、あまり会っていないだろう?」
怪訝そうな貌をする兄に、暁は
「申し訳ありません。…春馬さんにはよろしくお伝えください。…僕が、春馬さんのご婚約を心から喜んでいたと…」
と答えるのに留め、早々に家を出てきた。

大紋のことを考えると、まだ胸が張り裂けそうに苦しくなる。
暁は深く息を吐くと、アルフレッドに鞭をくれ、早駆けを促した。

アルフレッドは主人が早駆けをすると察知し、張り切って駆け出す。
元々、超優秀な競走馬の血筋のアルフレッドは駆けることが大好きだ。
暫く、乗ってやらなかったこともあり、駆け出すと止まらない。
暁はアルフレッドが駆けるままに走らせる。
疾風の如く駆け抜けるアルフレッド…
以前もこんなことがあった…

「…早駆けだ、暁。…追いておいで」
前を行く男が振り返り、笑う。
颯爽とした騎乗姿…
…あれは…

暁の胸が再び痛み出す。
…だめだ…
考えてはいけない…。
暁は鐙を軽く蹴り、更に早く駆けるように促す。
アルフレッドは忠実に主人に従う。
目の前の風景が早回しのフィルムのように進む。

…と、前方に外遊帰りらしい馬と、その騎乗の人物を認める。

…月城だ。
伯爵の馬をメンテナンスに来たのだろう。
月城もすぐに暁に気づき、しかし余りに早く駆ける暁に常ならぬものを感じたのか、端正な貌に気遣わしげな表情を浮かべ、声をかけようとする。

今は月城とは言葉を交わしたくなかった。
そのまま目も合わさずに傍を
駆け抜ける。
…と、馬首を返した月城が暁の馬を追いかけてきた。
「…暁様、速すぎます。速度を緩められてください」
暁は月城の貌も見ずに、更にアルフレッドを煽る。
アルフレッドが月城をあっと言う間に抜かしてゆく。

月城が馬の鐙を蹴り、あっと言う間に暁に追いつく。
「暁様、この先の道が泥濘んでいるのです。危険です」
「…うるさい!」
暁は冷たく言い放つ。

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