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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
暁は三人をテーブルに案内すると、メニューを手渡す。
大紋は穏やかに微笑みながら暁に語りかける。
「…とても良い店だね。…温かみがあって、落ち着く…。値段の設定もとても良心的だ」
…以前と少しも変わらない優しい微笑みだ。
「ありがとうございます。…西洋料理を食べたことがないような方々に、気軽に美味しいお料理を食べていただきたくて…」
伏し目がちに答えると、雪子が感心する。
「素晴らしいわ!暁様。…食文化から西洋の良さを知っていただくことはとても有効だと思うの。
…それにしても…こんなに素晴らしいお店なら、最初から絢子様をお誘いして差しあげたら良いのに。お兄様ったら冷たいわ」
大紋を綺麗なまなざしで睨む。
「ゆ、雪子さん…私は良いのよ…」
絢子が慌てたように訴える。
「いいえ、絢子様。貴女は遠慮しすぎるわ。…来週は貴女とお兄様は夫婦になるのよ?…夫婦は遠慮し合ったらダメ!もっとお兄様に我儘を仰いな」
…来週か…
…本当に、春馬さんは僕の手の届かないところに行ってしまうのだな…
クリスタルの水差しから水を注ぎながら、心は沈んでゆく。
「…雪子!」
大紋が叱責する。
…暁に聞かせたくないからだろう。
すると、絢子が大紋を庇うように、小さな声で答えた。
「…私は…このままでいいのです。…春馬様は、本当に私にお優しくしてくださいます…私は毎日、信じられないくらいに幸せです…」
熱く潤んだ眼差しで大紋を見上げる。
絢子の頬は薔薇色に輝き、幸福なオーラに包まれたその姿は大変美しかった。
「…絢子さん…」
大紋の声は苦しげだ。
傍にいる暁のことを慮っているのだろう。

暁はさり気なく提案する。
「…それではお料理の内容はお任せいただけますか?
…春馬さんと絢子さんのご結婚記念に特別なコースをご用意いたしますので…」
大紋が痛ましげに見上げる。
雪子は喜ぶ。
「まあ、素敵!楽しみだわ!」
絢子も嬉しそうに暁を見上げる。
「ありがとうございます。暁様…」
「…それでは少々お待ちください」
優雅に一礼すると、その場を離れる。
…このまま、ここから逃げ去りたい…
二人の幸せな様子など見たくない…

…でも…

暁は厨房の月城に告げる。
「…スペシャルコースを三名様だ。…オードブルはベルーガキャビアを…メインは最高級の神戸牛のフィレ肉で…僕はシャンパンを用意する…」
「…暁様…」




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